ナレーション  ・函館海難審判庁裁決。

        ・主文。本件洞爺丸遭難は、船体構造及び青函連絡船の運行

・管理が適当で無かった事もその一因ではあるが、多くは船

・長の運行に関する職務上の過失に起因して発生したもので

・ある。

音楽1     ・フェードイン

ナレーション  ・この物語は、昭和29年9月26日に起こった、死者14

・30名、タイタニック号の死者1490名に次ぐ、海難史

・上世界第二の惨事として永く語り継がれる事となる、洞爺

・丸事故の記録である。

タイトル    ・「ドラマ 上り四便 洞爺丸」

音楽1     ・フェードアウト

−−−−−−−−・−− シーン1 函館海洋気象台 −−−−−−−−−

ナレーション ・昭和29年 9月26日、午前6時。函館海洋気象台。

効果音     ・(気象台のノイズ) カットイン

成田予報官 ・「台風15号、午前3時現在、時速80キロメートル、最

・大風速35メートル、中心気圧970ミリバール、宮崎県

・を通過中。」

ナレーション ・これは、中央気象台から送られてきた、台風情報である。

・3時間時刻がずれているのは、中央気象台がデータを集め

・てそれを発表するのに、かなりの時間を要する為である。

川島予報官   ・「3時に宮崎を通過ですか、だいぶ早くなってますね。」

成田予報官   ・「そうだね、この分だと今6時だからもう瀬戸内か山陰へ

        ・来てるな。」

川島予報官   ・「問題はそのあとの進路ですが・・・」

成田予報官   ・「うーん、北陸をかすめて奥羽あたりを横切りそうだな。

川島予報官   ・「奥羽ですか、函館までは来そうにありませんね。」

成田予報官   ・「まあ、こっちにはそれほどの影響はないだろう。」

川島予報官   ・「そうですね。」

成田予報官   ・「ちょっと一休みするか。」

川島予報官   ・「あっ、はい。」

効果音     ・フェードアウト

−−−−−−−−・−− シーン2 洞爺丸 −−−−−−−−−−−−−

ナレーション  ・9月26日、午前6時30分、連絡船洞爺丸船は、まっす

        ・ぐ函館むけて北上中であった。

効果音     ・(波の音と船のエンジン音)カットイン

近藤船長    ・「(つぶやくように)風速12メートル、風向は東。」

水野一等航海士 ・「船首、異常ありません。」

近藤船長    ・「はい、ご苦労さん。」

山田三等航海士 ・「船長、この様子なら波をかぶる事もなさそうですね。」

近藤船長    ・「そうだな、たいした事は無いだろう。」

山田三等航海士 ・「船長、船尾異常ありません。」

近藤船長    ・「はい、ご苦労さん。これからブリッジは?」

水野一等航海士 ・「はい、私です。」

近藤船長    ・「水野君か。たいしたことはないと思うが、天候にはくれ

        ・ぐれも注意するように。」

水野一等航海士 ・「はい、解りました。」

近藤船長    ・「それじゃ、あとは頼みます。」

水野一等航海士 ・「はい」

山田三等航海士 ・「はい」

効果音     ・(ドアを閉める音)

山田三等航海士 ・「さすがに貫禄ありますね。」

水野一等航海士 ・「何しろ、この青函航路では一番の名船長だからな。」

山田三等航海士 ・「沈着冷静、僕なんかちょっと近寄り難いですよ。」

水野一等航海士 ・「確かにそうだな。操船術と気象の見込みにかけて右にで

        ・る者がいないと言われているからな。」

山田三等航海士 ・「30年間も無事故で岸壁にぶつけるようなちょっとした

        ・ミスもおかした事がなく・・・」

水野一等航海士 ・(続けるように)「ああ、我々からみたら神様みたいなも

        ・んだ。まあ、神様は冗談だけどな。」

山田三等航海士 ・「今ごろ、船長室でしょうか。」

水野一等航海士 ・「いや、いつも暇なときは、私服に着替えて船室へ行かれ

       ・るんだ。」

効果音     ・フェードアウト

−−−−−−−−・−− シーン3 洞爺丸 客室 −−−−−−−−−−

効果音     ・(船室の雰囲気のノイズ。乗客の会話で、洞爺丸が当時の

・国鉄の青函連絡船の中で、最新鋭の船である事が説明され

・る。)

−−−−−−−−・−− シーン4 函館海洋気象台 −−−−−−−−−

ナレーション  ・9月26日 午前9時。

効果音     ・(気象台のノイズ)カットイン

成田予報官   ・「台風15号、午前6時現在、時速90キロメートル、最

        ・大風速35メートル、中心気圧968ミリバール、瀬戸内

        ・を通過中。」

川島予報官   ・「10キロ早くなってますね。」

成田予報官   ・「それに中心気圧が2ミリバール下がってるな。」

川島予報官 ・「もう、島根県のあたりでしょうか」

成田予報官 ・「そうだね、3時に宮崎、6時に瀬戸内だから、今ごろは

・島根県のあたりだろう。」

川島予報官 ・「成田さん、寒冷前線が下がってきましたが、どうでしょ

・うか。」

成田予報官 ・「うん、もしかしたら北にそれるかも知れないな。しかし

・、函館にはさほど影響はないだろう。」

川島予報官 ・「それにしても妙な台風ですね。」

成田予報官 ・「そうなんだ。熱帯低気圧として発生してから、なかなか

・台風になれなかったやつだからな。」

川島予報官 ・「それが、あっという間に発達してますね。」

成田予報官 ・「日本に近ずくにつれて発達するのは珍しくないが、こい

・つは上陸してから発達してるからな。」

川島予報官 ・「普通は、上陸したら衰弱するんですけどね。」

成田予報官 ・「そうなんだ、異常な発達ぶりだ。日本海に出ればさらに

・速度を上げるだろう。」

川島予報官 ・「ええ」

成田予報官 ・「まったく妙な奴だ。」

効果音 ・フェードアウト

 

       つづく