−−−−−−−−・−− シーン5 洞爺丸船長室 −−−−−−−−−−

効果音 ・(船の進行中の波の音)フェードイン

効果音 ・(ノックの音)

近藤船長 ・「入りたまえ。」

山田三等航海士 ・「失礼します。台風情報を持ってきました。」

近藤船長 ・「はい、ありがとう。10キロ速くなっているのか。」

山田三等航海士 ・「午後の航海はどうでしょうか。」

近藤船長 ・「この様子だと、少し苦労するかもしれんが、まあ、大丈

・夫だろう。」

山田三等航海士 ・「そうですか。」

近藤船長 ・「ブリッジは水野君?。」

山田三等航海士 ・「はい、そうです。」

近藤船長 ・「そうか。」

・「山田君、津軽海峡には7種類の、かもめがいるのを知っ

・ているか。」

山田三等航海士 ・「えっ、いえ。」

近藤船長 ・「いいか、それが見分けられん様では、一人前の航海士で

・は無いぞ。」

山田三等航海士 ・「どうしてですか?」

・「万一不測の事故で、レーダーなどが故障した時、場所ご

・とに違う、かもめの特徴を覚えておけば、おおよそ船がど

・の位置にいるか見当がつくからだ。」

・「なるほど・・。どうもありがとうございました。」

・「うん。それじゃ、船内を巡視して来て下さい。」

・「はい、わかりました。失礼します。」

ナレーション ・9月26日、午前11時5分、定刻より5分遅れて洞爺丸

・は、函館桟橋第一岸壁に着いた。このあと洞爺丸は午後2

・時40分発の上り四便として、同じ乗組員によって運行さ

・れる事になっていた。

効果音 ・フェードアウト

−−−−−−−−・−− シーン6 函館海洋気象台 −−−−−−−−

ナレーション ・9月26日正午。

効果音 ・(気象台のノイズ。やや強い風の音)フェードイン

成田予報官 ・「台風15号、午前9時現在、速度110キロメートル、

・最大風速35メートル、中心気圧968ミリバール、鳥取

・の北、日本海海上を通過中。」

川島予報官 ・「成田さん、20キロも速くなってますよ。」

成田予報官 ・「ああ、速くなるとは思っていたが、110キロとは・・

・・信じられない速さだ。」

川島予報官 ・「まったくです。110キロだなんて・・・。この速さで

・9時に鳥取の北とすると・・・」

成田予報官 ・「ああ、今ごろは佐渡あたりだ。」

川島予報官 ・「佐渡!」

成田予報官 ・「そうだ、もうそのあたりには来ている。なんて速さだ。

・」

川島予報官 ・「はい・・・成田さん、そして・・・。」

成田予報官 ・「・・・うん」

川島予報官 ・「寒冷前線ですね。」

成田予報官 ・「まさかとは思ったが。」

川島予報官 ・(続けるように)「進路がかなり北にずれた。」

成田予報官 ・「この分だと津軽海峡を通り抜けるだろう。川島君、佐渡

・から津軽海峡まで何キロだ?。」

川島予報官 ・「500キロ位です。」

成田予報官 ・「500キロか・・・。時速110キロとすると、佐渡か

・ら津軽海峡まで4時間半で来る事になるな。」

川島予報官 ・「今、正午ですから。」

成田予報官 ・「4時半か・・・」

川島予報官 ・「・・・4時半。」

成田予報官 ・「台風の中心が4時半に津軽海峡だ。よし、暴風雨警報を

・出そう。」

川島予報官 ・「はい!。」

成田予報官 ・「暴風雨警報。1.台風が近づいております。

・ 2.全域とも暴風雨になります。

・ 3.本日昼過ぎから強くなります。明朝は

・ 弱くなります。

・ 4.東の風、のち北西の風。

・ 5.陸上20−25メートル、海上25−

・         30メートル 。

・ 6.降水量30−50ミリ 」

・(途中から、成田の声、フェードアウト)

ナレーション ・もはや、午後の航海は危険であるのを示すのに十分であっ

・た。

効果音 ・フェードアウト

−−−−−−−−・−− シーン7 洞爺丸 船長室 −−−−−−−−−

効果音 ・(港の音。やや風が強い。)フェードイン

近藤船長 ・「来るのか・・。時速110キロで来れば4時半前後に津

・軽海峡に来るな・・。4時半、4時半か。2時40分の定

・時に出航して、2時間ほど後だ。2時間か、まだ津軽海峡

・だな。そんな所で台風にぶつかったら・・。35メートル

・の風が吹き荒れ、船は木の葉の様にもまれるに違いない。

・だめか?いや、陸奥湾にさえ逃げ込めれば。そう、陸奥湾

・にさえ・・。どの位で逃げ込めるか?。たぶん10分か2

・0分だ。それ位なら・・。それにしても、4時半とはな、

・ぎりぎりのとこだな・・。いやまてよ、110キロで来て

・4時半だ。まさか、これ以上速度は上がるまい。速度が落

・ちれば、来るのはもっと遅くなる。つまり、4時半に来る

・のは最悪のケースだ。よし、やれない事はない。出航しよ

・う。」

効果音 ・(ドアのノック音)

近藤船長 ・「入りたまえ。」

山田三等航海士 ・「失礼します。第十一青函丸が強風のため引き返してくる

・ので、乗客と貨車を洞爺丸に移させて欲しいとのことです

・。」

近藤船長 ・「はい、わかりました。」

山田三等航海士 ・「それでは、失礼します。」

効果音 ・(ドアの閉まる音)

ナレーション ・第十一青函丸は、洞爺丸よりかなり小さい型であるため、

・めわずかの揺れにも弱く、引き返す必要があった。

・洞爺丸は、こうして第11青函丸の貨車をも、積み込む事

・となった。

効果音 ・フェードアウト

 

                                つづく