−−−−−−−−・−− シーン8 函館海洋気象台 −−−−−−−−−
ナレーション ・9月26日、午後3時
・
効果音 ・(気象台のノイズ。風が強い。)カットイン
・
成田予報官 ・「台風15号正午現在、時速110キロメートル、最大風
・速35メートル、中心気圧986ミリバール、佐渡沖を通
・過中。」
・
川島予報官 ・「110キロで変わってませんね。」
・
成田予報官 ・「それに正午に佐渡だ。予想通り、4時半には津軽海峡に
・来る。4時半には・・。」
・
効果音 ・フェードアウト
・
ナレーション ・ここで台風の動きを整理してみると、この日まず台風は、
・3時に宮崎、そして3時間後、6時には瀬戸内を通過して
・いる。この時の時速は10キロメートル上がって90キロ
・メートルになっていた。
・さらに9時には鳥取の北を通過している。
・注意すべき点は、この時、時速が20キロメートル上がっ
・て、110キロメートルに達したということである。
・そして正午には、佐渡を通過していた。
・つまりこの日台風は、九州に上陸し、瀬戸内を通り、日本
・海を北上してきている。このあと4時半頃には、津軽海峡
・を通過する模様である。
・以上が、ここまでの台風の進路である。
・
効果音 ・(港の音)フェードイン
・
・一方、洞爺丸は定刻の2時40分をすぎても、まだ函館桟
・橋に繋がれたままであった。引き返してきた第十一青函丸
・の乗換に、思いのほか時間がかかったためである。
・
近藤船長 ・「どうしたんだ。まだ終わらないのか。」
・
山田三等航海士 ・「はい、荷物車と寝台車を積み込み中です。」
・
近藤船長 ・「だめだ!。この急いでいる時に荷物車はともかく、寝台
・車は積んでいられない。すぐ出航する。」
・
山田三等航海士 ・「はっ。」
・
近藤船長 ・「船尾に行って寝台車は積まないと言ってきなさい。」
・
山田三等航海士 ・「はい。」
・
ナレーション ・すぐに出航準備は完了した。あとは車両甲板にかけられた
・タラップが外されればよかった。
・だが・・。
・
近藤船長 ・「タラップを上げろ。何故上げないんだ。」
・
山田三等航海士 ・「停電です。上げられません。」
・
近藤船長 ・「何だって停電・・。ふっ、もう定刻を30分もすぎてい
・る。いつ直るかわからない停電を待っているわけにはいか
・ん。よろしい、出航配置解除。本船は出航を見合わせる。
・本船テケミ。」
・
各船員 ・「テケミ」を復唱
・
効果音 ・フェードアウト
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ナレーション ・函館桟橋の停電は、午後3時9分から11分までの、わず
・か2分間だった。
・
−−−−−−−−・−− シーン9 洞爺丸 −−−−−−−−−−−−−
効果音 ・(港の音。風の音。)フェードイン
・
船内放送 ・「2時40分出航予定の洞爺丸は、悪天候のため、しばら
・く出航を見合わせます。お見送りの方は、どうぞお帰りく
・ださい。」
・
近藤船長 ・「やり過ごすしかないな・・・。4時半に津軽海峡来ると
・函館には?110キロの速度で進んでくると、5時半か。
・そうすると、5時半頃ここは台風の目に入って、いったん
・空はきれいに晴れ上がり、風もおさまる。
・そのあと、しばらく吹き返しが来るが、まもなくおさまっ
・てくるだろう。この分だと6時には出航できそうだ。」
・
効果音 ・フェードアウト
・
−−−−−−−−・−− シーン10 函館海洋気象台 −−−−−−−−
ナレーション ・9月26日、午後5時
・
効果音 ・(気象台のノイズ。風の音。)
・
川島予報官 ・「成田さん、札幌気象台より情報が入りました。」
・
成田予報官 ・「どんな情報だ。」
・
川島予報官 ・「はい、台風はあと1時間位で、渡島半島西部に上陸し、
・本道北部に向かって縦断するか、または日本海岸を北上す
・る可能性がある、との事です。」
・
成田予報官 ・「そうか、あと1時間位で渡島半島西部ということは、ど
・うやら函館を直撃しないみたいだな。」
・
川島予報官 ・「ええ、西寄りに進路を変えたんですね。」
・
成田予報官 ・「今頃は、函館の真西に来てるはずだ。」
・
川島予報官 ・「函館の緯度線には、予想通り5時頃到着してますね。」
・
成田予報官 ・「ああ。すると、台風の速度は落ちていない。進路だけ西
・にそれたんだ。」
・
効果音 ・フェードアウト
・
−−−−−−−−・−− シーン11 洞爺丸 −−−−−−−−−−−−
ナレーション ・午後5時30分。洞爺丸は未だに出航を見合わせていた。
・
効果音 ・(港の音。多少の風がある。)フェードイン
・
近藤船長 ・「台風の目だ。まちがいない。台風は西にずれたのではな
・く、やはり、こちらに来たんだ・・。予想通りの速さで来
・たな。
・この速さなら、行ってしまうのも速い。吹き返しの時間は
・長くない。よし、出航しよう。
・それにしても手を焼かせる奴だ。奥羽を横切る様にみせて
・函館に進路を変えた。
・そして更に西にずれた様に見せかけ、その上で今ここに正
・体を現した。もうだまされんよ。さあ、よし、6時半に出
・航する。
・
・6時スタンバイ。」
・
効果音 ・フェードアウト
・
−−−−−−−−・−− シーン12 函館海洋気象台 −−−−−−−−
効果音 ・(気象台のノイズ。多少の風の音。)
・
成田予報官 ・「台風の目か?。」
・
川島予報官 ・「でも台風は、もっと西にいるはずですよ。」
・
成田予報官 ・「そうだが、この晴れ間はいったい?・・。観測結果に矛
・盾しているが、台風の目にまちがいない。」
・
川島予報官 ・「確かにこの晴れ間を説明できるのは、台風の目しかあり
・ませんね。でも・・。」
・
成田予報官 ・「ああ。どこか、ひっかかるな。」
・
効果音 ・フェードアウト
・
ナレーション ・成田予報官の疑問は正しかった。台風の中心はその時刻、
・まちがいなく日本海にあったのである。
・しかしまだ知られていない重要な事実があった。それは台
・風が高気圧に妨げられて、時速を110キロメートルから
・一挙に40キロメートルにまで落としてしまった、と言う
・事である。
・では、あの晴れ間はいったい何だったのだろう。
・台風15号がこの朝日本海に出た頃、海上には複雑に前線
・と低気圧が発生していた。あの晴れ間は、この前線と低気
・圧の微妙な影響の産物であった。自然は壮大な欺まんをや
・ってのけたのある。
・だが、それよりも重要なのは、台風が観測網をかいくぐっ
・てひそかに、日本海海上で、その牙をむこうとしているこ
・とだった。
・そしてそれがどれ程すざまじいか、だれも知らなかった。
・
−−−−−−−−・−− シーン13 洞爺丸 −−−−−−−−−−−−
効果音 ・(港の音。風が強い。)フェードイン
効果音 ・(汽笛の音。2声。)
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近藤船長 ・「もやい綱をはずせ。」
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水野一等航海士 ・「船首、オールクリアー、サー。」
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山田三等航海士 ・「船尾、オールクリアー、サー。」
・
近藤船長 ・「長音一声。」
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船員 ・ (復唱)
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効果音 ・(汽笛の音。長音。)
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近藤船長 ・「左舷機関、微速前進。」
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船員 ・(復唱)
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効果音 ・(進行中の波音とエンジン音。)フェードイン
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近藤船長 ・「面舵一杯。」
・
船員 ・(復唱)
・
近藤船長 ・「両舷機関、半速前進。」
・
船員 ・(復唱)
・
効果音 ・ フェードアウト
・
ナレーション ・ 6時39分、洞爺丸は出航した。
つづく