−−−−−−−−・−− シーン14 函館海洋気象台 −−−−−−−−

効果音 ・(激しい風雨の音)フェードイン

川島予報官 ・「成田さん、船が動き始めましたよ。」

成田予報官 ・「まさか、5時のニュースで、出航を見合わせているはず

・だろう。」

川島予報官 ・「そうですが、でも・・。」

成田予報官 ・「うーん。」

川島予報官 ・「港内に錨を入れるつもりじゃないですか?」

成田予報官 ・「いや、船室に明かりがついている。まさか出航したんじ

・ゃ、いや、まさか。」

効果音 ・フェードアウト

音楽 2 ・

−−−−−−−−・−− シーン15 洞爺丸 ブリッジ(操舵室) −−

効果音 ・(激しい波の音、風の音、エンジン音等)カットイン

水野一等航海士 ・「船長、まもなく防波堤を通過します。」

近藤船長 ・「よし、進路を南にとれ。」

山田三等航海士 ・「はい。」

効果音 ・レベルアップ

水野一等航海士 ・「なんだ、ブリッジまで波がきている。すごい吹き返しだ

・な。」

山田三等航海士 ・「船長、風速が40メートルを越えてます。」

近藤船長 ・「なんだって。これ以上進むと危険だ。よし、ここでやり

・すごそう。停泊する。」

山田三等航海士 ・「はい。」

近藤船長 ・「今、風向は。」

山田三等航海士 ・「南です。」

近藤船長 ・「南か・・。よし、左舷機関、微速前進。」

山田三等航海士 ・(復唱)

近藤船長 ・「錨を下ろせ。」

山田三等航海士 ・「はい。」

ナレーション ・午後7時1分、防波堤から北東1300メートルの地点に

・錨が下ろされた。

近藤船長 ・「ものすごい吹き返しだな。しかしどこかおかしい。あの

・晴れ間は、台風の目ではなかったのか。いや、まさか。」

水野一等航海士 ・「船長、しばらく吹くかもしれませんね。」

近藤船長 ・「うん、こうひどいと港にいると、かえって危険だったろ

・うな。」

水野一等航海士 ・「はい、もやい綱も切れたでしょうから、港外で錨を入れ

・るしかなかったと思います。」

近藤船長 ・「そうだな。」

効果音 ・更にレベルアップ

水野一等航海士 ・「船長、レーダーを見て下さい。まるで、振り子のようで

・す。」

近藤船長 ・「まずいな、船をまっすぐ風に立てなければいかん。」

山田三等航海士 ・「船長、少し引けてます。」

近藤船長 ・「よし、両舷機関、微速前進。」

山田三等航海士 ・(復唱)

山田三等航海士 ・「だめです、まだ引けてます。」

近藤船長 ・「両舷機関、半速前進。」

山田三等航海士 ・(復唱)

水野一等航海士 ・「船長、右に振られてます。」

近藤船長 ・「左舷機関、全速前進、右舷機関、微速前進。」

山田三等航海士 ・(復唱)

山田三等航海士 ・「まだ、引けてます。」

近藤船長 ・「なんだと、両舷機関、全速前進。」

山田三等航海士 ・(復唱)

山田三等航海士 ・「まだ、振られてます。」

近藤船長 ・「よし、右舷機関、全速前進、左舷機関、微速前進。」

ナレーション ・揺れるブリッジは、戦場のようになりはじめた。

効果音 ・フェードアウト

−−−−−−−−・−− シーン16 函館海洋気象台 −−−−−−−−

ナレーション ・9月26日、午後9時。

効果音 ・(激しい風雨の音)

成田予報官 ・「台風15号、午後6時現在、時速40キロメートル、最

・大風速40メートル、中心気圧958ミリバール、函館の

・西、日本海を通過中。」

川島予報官 ・「成田さん。」

成田予報官 ・「・・・」

川島予報官 ・「まさか、あの晴れ間は台風の目ではなかった。」

成田予報官 ・「ああ。」

川島予報官 ・「やはり進路は西にずれていたんですね。今頃はとうに通

・り過ぎているはずなのに・・。40キロだなんてなんて事

・だ。110キロというものすごい速さから一挙に40キロ

・まで落ちるとは、なんて台風だ。しかも中心気圧が10ミ

・リバール下がって、いまだに発達している。いったいどう

・いう事なんだ。」

成田予報官 ・「最悪だ。台風が発達しながらゆっくり進むほど、恐ろし

・い事は無い。同一方向の風が、長時間吹き続けるからな。

・それにしても・・。」

効果音 ・フェードアウト

−−−−−−−−・−− シーン17 洞爺丸 ブリッジ −−−−−−−

効果音 ・(激しい波浪の音)

水野一等航海士 ・「船長、機関室が大変です。」

近藤船長 ・「どうした。」

水野一等航海士 ・「車両甲板の通気孔から浸水してます。機関室は、もう水

・浸しです。」

近藤船長 ・「なに、まさか。」

水野一等航海士 ・「このままだと、機関室が水没してしまいます。」

効果音 ・カットアウト

−−−−−−−−・−− シーン18 洞爺丸 機関室 −−−−−−−−

効果音 ・(海水が進入する音)

機関長 ・「発電機と配電盤に、カンバスをかけろ。」

機関士 ・「はい。」

機関長 ・「総員非常配置につけ。排水ポンプを作動させろ。」

機関士 ・「だめです。これ以上は無理です。」

機関長 ・「だめだ、できる限りやってくれ。ノズル全開。主回転を

・上げろ。」

機関士 ・「はい。」

効果音 ・レベルアップ (次の台詞をかき消す)

機関士 ・「機関長、排水ポンプではだめです。」

効果音 ・フェードアウト

−−−−−−−−・−− シーン19 洞爺丸 客室 −−−−−−−−−

効果音 ・(ガラスが割れ、波が進入し、室内がパニックになる。ボ

・ーイが必死で制止しているが、効果無し。悲鳴等。)

−−−−−−−−・−− シーン20 洞爺丸 ブリッジ −−−−−−−

効果音 ・(エンジン音、波浪音)

山田三等航海士 ・「船長、風速計が58メートルを指してます。」

近藤船長 ・「ばかな、いったい、どういう事なんだ。これがあの大し

・た事の無かった台風の、吹き返しなのだろうか。いや、そ

・うとは思えない。だとすると、これ程の風とうねりの原因

・は何だ。」

水野一等航海士 ・「船長、少し引けてます。」

近藤船長 ・「よし、両舷機関、半速づつ上げろ。」

水野一等航海士 ・「はい。」

効果音 ・(左のエンジン音が、不規則になる)

近藤船長 ・「どうしたんだ、機関室か。」

山田三等航海士 ・「船長、左舷機関が、もう、もちません。」

近藤船長 ・「かまわん、全開にして回せ。」

山田三等航海士 ・「しかし・・。」

近藤船長 ・「いいから回せ。壊れるかもしれんが、止めると船が転覆

・してしまう。回せ。」

山田三等航海士 ・「はい。」

水野一等航海士 ・「船長、右に振られてます。」

近藤船長 ・「よし、左舷機関、全速前進。」

山田三等航海士 ・(復唱)

近藤船長 ・「右舷機関、微速前進。」

山田三等航海士 ・(復唱)

水野一等航海士 ・「まだ、引けてます。」

近藤船長 ・「両舷機関、全速前進。」

山田三等航海士 ・(復唱)

水野一等航海士 ・「今度は、左に振られてます。」

効果音 ・(左エンジン音)一瞬アップの後、カットアウト

山田三等航海士 ・「左舷機関、停止しました。」

近藤船長 ・「右舷機関はどうだ。」

山田三等航海士 ・「はい、ビルジ排出困難で、時間の問題です。」

効果音 ・(右エンジン音)フェードアウト

近藤船長 ・「だめか、何という事だ、船の命が・・。もはやこのまま

・沈むのを待つのみか・・。いや、まだ一つだけ助かる道が

・ある。運が良ければ。」

ナレーション ・機関が止まると、舵も効かなくなる。船は横向きになり、

・巨大な波を受け始めた。

水野一等航海士 ・「船長、流されてます。」

近藤船長 ・「うむ、海岸まであとどの位だ。」

山田三等航海士 ・「1200メートルです。」

近藤船長 ・「よし、このまま七重浜に座礁する。」

水野一等航海士 ・「はい。」

近藤船長 ・「運良く座礁すれば、助かるはずだ。あとは祈るしかない

・な。」

山田三等航海士 ・「あと1000メートルです。」

水野一等航海士 ・「風が落ちてます。風速28メートル。」

近藤船長 ・「やまは越えたな。あと少しの辛抱だ。」

水野一等航海士 ・「大丈夫かも知れませんね。」

近藤船長 ・「ああ。」

山田三等航海士 ・「海岸まで、あと800メートル。」

山田三等航海士 ・「あと700メートル。」

山田三等航海士 ・「あと600メートル。」

効果音 ・(座礁する音。極低音。)

水野一等航海士 ・「あがった。」

山田三等航海士 ・「座礁したんですね。」

近藤船長 ・「全員ご苦労。」

山田三等航海士 ・「はい。」

近藤船長 ・「水野君、乗客に座礁したから大丈夫と伝えなさい。」

水野一等航海士 ・「はい。」

近藤船長 ・「山田君、函館桟橋へ打電して下さい。」

山田三等航海士 ・「はい、わかりました。」

・「こちら洞爺丸。22時26分、座礁せり。」

効果音 ・レベルアップ

山田三等航海士 ・「船長、だめです、止まりません。」

近藤船長 ・「いったいどうしたんだ。しっかりと、座礁したはずなの

・に。」

水野一等航海士 ・「右舷の傾き、復元不能です。」

近藤船長 ・「ばかな。なぜだ。」

ナレーション ・座礁すると、船の底に砂が食い込んで、動かなくなるはず

・である。しかし洞爺丸が座礁した地点は、風とうねりで運

・ばれてきた砂の上だった。そのためしっかりとは、座礁で

・きなかった。」

近藤船長 ・「ここまでか。全員、救命胴衣をつけろ。500キロサイ

・クルで、SOSを打て。」

山田三等航海士 ・「は、はい。SOS洞爺丸。本船は函館港外青燈台より2

・67度8ケーブルの地点に座礁せり。」。

・(繰り返し)

効果音 ・(大波の音)レベルアップして、台詞をかき消す

効果音 ・フェードアウト

ナレーション ・午後10時40分だった。

効果音 ・(静かな波音)フェードイン

ナレーション ・洞爺丸は、4本の煙突を斜めに砂に突き刺す形で、転覆沈

・没し、動かなくなった。七重浜沖、僅か600メートル、

・函館桟橋から約5キロの地点だった。

・その後、海難審判で、洞爺丸事故の原因は船長の過失によ

・ると、判断された。

効果音 ・フェードアウト

−−−−−−−−・−− シーン21 −−−−−−−−−−−−−−−−

成田予報官 ・「台風15号、午後10時現在、時速40キロメートル、

・最大風速40メートル、中心気圧956ミリバール、積丹

・半島の先端を通過中。」

音楽 3 ・フェードイン

アナウンス ・キャスト、スタッフの紹介

                               (完)